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2006年5月
建築の勇気

ガエ・アウレンティというイタリアの女流建築家が設計した「イタリア文化会館」の色彩が再び話題になっているらしい。
数年前にこのイタリア文化会館が九段の千鳥が淵に新築オープンしたときにその外壁の赤い色が問題になったという。そもそもこの建築家の初期のプランではイタリアンレッドだったようだが、赤い壁は、千鳥が淵の環境にそぐわないということで、周辺の住民が問題にして、その結果ベンガラ色とも言える渋い赤に変更したという経緯があった。
それが再び、まだその色が気に入らない周辺からの突き上げで、塗り替えを要求しているという。

そんなに醜い建物なのかと思って、前をクルマで通ったときにしげしげと見てみた。ベンガラ色は日本古来の鳥居の色からイメージしたらしいが、それよりもかなり渋めの色調で、決して違和感はない。赤い壁面がこの建物の個性を形成している。あきらかに好き嫌いは分かれるだろうが、建物の改修を要求するほど辺りの雰囲気に反するようなものではないし、町並みを壊している訳でもない。
むしろ隣にある学校のベージュの建物の方がよほど性格(たち)が悪い。デザインに志がない、ただ木偶の坊のような、有っても無くてもよいというレベルのデザインなのだ。

かつて吾妻橋のほとりに、フィリップ・スタルクがアサヒビールの本社を建てたときも、ビアホール館の上の金色のモニュメントについてさんざんな酷評が渦巻いたことを思い出す。だがあれのおかげで、東京としてはオフな場所に建つこのビルは、ひと時東京で一番有名なビルになった。しかしながらあのビルを壊せという声や、あのモニュメントの色を変えろという声は聞いたことがない。

かつて東京のシンボルだった仁丹塔も、大阪の通天閣もへんてこな建物であった。それでも許され、ランドマークたり得たのは、その個性的なデザインにある。すなわち、ただ趣味のよい(とされる)無難な色の只の四角いビルでは、ランドマークたり得なかったことも確かだ。

大阪に行くたびに感じるが、あの道頓堀の悪趣味なネオンや看板の群れも、あの土地には絶対に必要なデザインなのだ。あのキッチュさがなくなったとたんに道頓堀は存在価値を失ってしまうからだ。
先日上海に出張してきた。上海は二年ぶりだったが、またもや大きく様変わりをしていた。浦東の再開発のランドマークたる森タワー(ワールドファイナンスセンター)も三十数階分まで建ち上がっていた。101階のアジアで一番高い建造物になる風格を既に感じさせた。

この建設は一度中断を余儀なくされた、その原因が、最上部のデザインのポイントであった丸い切り欠きが、日の丸をイメージさせるというクレームだったと聞いている。従ってこのデザインは、四角い切り欠きに変更されることになった。

アメリカのKPFのデザインになるというこの建物のシェープは、三弦のバチのようにリュウとした形で実に美しい。初期の丸い切り欠きであったら、もっとシンボリックな建物になっただろうと悔やまれもするが。いずれにせよ建築史に残る建築であることは間違いない。

それにしても上海には趣味のよい高層ビルと、とんでもない悪趣味な高層ビルが入り乱れているところに特徴がある。中には冗談で設計したとしか思えないトンデモ・ビルも少なくない。だがそれがシンガポールとも香港とも、クワラルンプールとも、ニューヨークとも違う上海の個性になっているとも言えよう。

言ってみれば、一般的に趣味のよいと言われる無個性なビルだけでは、ランドマークたり得ないということだ。良貨(グッドセンス)を目立たせるためにもたまには悪貨(バッドセンス)も必要であり、往々にしてバッドセンスの方が個性を形成するものなのかもしれない。
その意味では、いつの世でも建築家にはいささかの野蛮さと勇気が必要なのである。

それにしても、なぜイタリア文化会館だけが槍玉にあげられるのかがわからない。反対意見の中に何故かカビ臭いにおいがするのが気になるが・・・。




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